ユーザー事例


 国内外に幅広く航空運送事業を展開する日本航空。同社では2010年から“アメーバ経営”を導入し部門別採算制度を開始、ITについてはシステム基盤の標準化や老朽化したシステムのリプレースなどを行うIT刷新プロジェクトを立ち上げた。基本方針として定められたのは、自社独自のシステムに固執することなくパッケージ製品を活用し、コストを下げること。レッドハットのユーザー会で得た他社の成功事例と知見をベースに、Red Hat Enterprise LinuxとRed Hat JBoss Middlewareの採用を決めた。

背景

部門別採算制度実現の第一歩として、
老朽化したシステム基盤の刷新を検討

2010年から日本航空(以下JAL)が社内への適用を始めた部門別採算制度は、企業内の各部門を小さなユニットに分け、その各々で採算管理を行うという経営手法だ。めまぐるしく変化するビジネス環境に迅速かつ柔軟に対応していくための手法であり、例えばアプリケーションコストについても、その恩恵を受ける比率に応じた各事業部門の負担となる。
この部門別採算制度の取り組みの一環として立ち上がったのがIT刷新プロジェクトで、システム基盤の標準化/共通化、老朽化している各種システムの刷新などを目指すものである。今回ご紹介するのは、この刷新の対象の1つとなった、JALの国内ツアー商品を消費者に販売する「たびJALシステム」のシステム基盤だ。
たびJALシステムは、旅行代理店に専用画面を提供し、店頭で来店客の要望を聞きながらツアー商品の予約から発券までを可能にする一方、消費者自身がWebサイトからツアー商品の予約や発券もできるようになっている。いわば2つの入り口からの申込みを集約して一元的に処理するためのシステムで、稼働開始が2004年8月、当時で既に6年が経過しており、老朽化がかなり進んでいた。
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課題

“戸建て”のシステム基盤を“マンション
タイプ”へ移行し、コスト削減も実現する

そこでJALでは、たびJALシステムの基盤に焦点を当て、それまで利用していた商用製品をリプレースするプロジェクトに乗り出すことになる。当時の状況を、日本航空株式会社 IT企画本部 IT推進企画部 国内旅客グループ マネジャーの増満裕氏は、次のように振り返る。
「かつては個別のサーバー群の中で、それぞれのシステムを構築していました。たとえるなら、各システムが“戸建て”の住宅に入居していたイメージです。それを今回のプロジェクトでは、別立ての統合サーバーに移行し、共通のシステム基盤を構築して、すべてのシステムを更新のタイミングで順次その環境に移行していくことを目指したのです。いわば“マンションタイプ”への引っ越しですが、この戸建てからマンションタイプへの移行が、IT刷新プロジェクトの1つの命題でした」。
また“売上を最大に、経費は最小に”という全社スローガンのもと、初期コストおよび継続的に発生するコストをできるだけ圧縮することが重要なテーマとして掲げられた。

システム要件

従来機能を踏襲しつつ
コストを抑制することは可能か

それまで同社はたびJALシステムの基盤として、OSにはAIX、ミドルウェアにはWebSphereを使っており、開発用のフレームワークもWACs(Web Application Components)というベンダー独自のものを利用していた。しかしこのWACsも当時で3世代前のバージョンを使っており、老朽化が深刻化していた。
「そこでシステム基盤の刷新にあたり、大きく2つの選択肢に絞りました。既存の商用製品をそのままバージョンアップするか、あるいは全く新しい環境を実現するか、すなわちOSSを採用し、レッドハット製品を適用するかです」。
たびJALシステムは、JALの国内ツアー商品の販売を担うもので、同社にとってはミッションクリティカルなシステムだ。当然システム基盤にも24時間365日の安定稼働が求められることになる。例えば同社では年に2回、大々的な売り出しを実施しているが、その際に発生する大量のトランザクションも滞りなく処理する必要がある。
JALでは今回の基盤刷新に先立ち、OSSを採用したシステム標準化の検証をレッドハットと共に進めており、OSSの有用性についても認識していた。
「最終的な製品の選定ポイントは、業務アプリケーションの機能をきちんと踏襲でき、さらにコストを抑えることができるかどうか。その際には、業務アプリケーションと開発用フレームワークとの依存関係も十分に見極める必要がありました」。
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レッドハット製品を選んだ決め手

ベンダー依存脱却とコスト削減効果
ユーザー会での情報提供が安心感をもたらす

同社では、現行環境のアセスメントをレッドハットに依頼、刷新にあたっての既存環境との依存関係や想定されるリスク、さらには初期および運用コストなどを洗い出した。そして最終的に選択したのが、OSとしてRed Hat Enterprise Linux、ミドルウェアとしてRed Hat JBoss Enterprise Application Platformだ。
まずアセスメントの結果、業務アプリケーションと既存の開発用フレームワークであるWACsとの依存関係は、懸念するほど大きくないということが判明した。
「当初は、商用製品のバージョンを上げるほうが初期コストを下げられると思ったのですが、バージョンアップに伴う細かい調整やテストなどを含めると、結局は作り直すのとほぼ同等の費用がかかることがわかりました。一方レッドハット製品なら、初期コストが大幅に下げられることが見えてきたのです」。
またWACsはいわゆるブラックボックス化が進みつつあり、システム改修の際にはベンダーに依頼せざるを得なかった。維持管理コストもかさんでいたのだ。
「運用コストの部分についても、レッドハット製品を選択することでベンダー依存の状況から脱却し、最小化を図ることができると考えました」。
さらに同社は、今回のシステム基盤刷新プロジェクトに先立ち、AIX→Linuxのリプレースを成功させた他社事例をレッドハットから紹介してもらい、実際にそのユーザー企業を訪問してさまざまな知見を得ていたという。
「もともとはレッドハットのユーザー会で事例を知り、その後その企業を紹介してもらって個別にコンタクトを取りました。参考にできるノウハウが豊富にあることは、きわめて大きな安心感に繋がりましたね」(増満氏)。

レッドハット製品を導入したメリット1

当初予定の数分の1の初期コストで
移行を実現、運用コストも大幅削減

実際のシステム基盤刷新プロジェクトは2011年にスタート、調査に3ヵ月、分析/評価に6ヵ月を費やし、さらに半年にわたって一部のパイロットシステムで検証を行った。その後、1年半をかけて全システムを完成させてテストを実施、稼働開始は2013年11月だ。
「今回の最大のポイントだったのは、何よりもまず安全にシステムを移行すること。レッドハットからアセスメントやセキュリティ上の留意点などさまざまなアドバイスをもらったおかげで、安全移行を実現することができました。稼働開始から現時点で半年以上が経過していますが、リリース初期は数件トラブルも発生したものの、現在は安定的に稼働しています」。
また増満氏は具体的な導入効果として、大幅なコスト削減が達成できたことも強調する。
「まず当初の想定よりも、数分の1の初期コストで移行を完了することができました。運用コストの面からも、OSSであるレッドハット製品を採用したことで、これまでベンダーに支払っていた多大な維持管理コストを最小化することができました。“経費は最小に“という全社スローガンにも、十分応えることができたと考えています」。

レッドハット製品を導入したメリット2

商用製品からのリプレースで、システム
環境の“ホワイトボックス化”を実現

またJALと共にプロジェクトを推進した株式会社JALインフォテック エアライン事業本部 国内旅客・旅行システム部 エンジニアの大崎卓真氏は、今回レッドハット製品を導入したシステム環境面からの効果について、次のように説明する。
「OSやミドルウェアに商用製品を利用していた時には、改修などが必要になった場合には、その対応をベンダーに依頼しなければならなかったのですが、OSSであるレッドハット製品を採用したことで、システム環境をホワイトボックス化することができました。これで今後、何か手を加える必要が発生した場合でも、我々JALインフォテック側で修正できるようになります。これは維持管理コストを最小化する上でも、大前提となるシステム要件だと考えています」(大崎氏)。
さらに今回、業務アプリケーションとの依存関係が大きな課題となっていた開発用フレームワークのWACsについては、オープンソースのフレームワークを採用した。この部分においても、ベンダーロックインからの脱却に成功している。

レッドハット製品を導入したメリット3

事前の注意喚起で、発生した課題にも
“想定内の出来事”として対応

今回のプロジェクトでは、事前にレッドハットから指摘を受け、さらにJAL側でも留意していたものの、実際のプロジェクトの過程でやはり問題として浮上した項目があるという。文字コードの互換性だ。
「AIXを利用していた時には、Shift JISがデフォルトの文字コードで、実は現在でもデータベースなどとの絡みでこれは変わっていません。しかしLinuxではUTF-8がデフォルトの文字コードになります。そこで両者の互換性には注意が必要ですよという指摘をレッドハットから受けていたのですが、Shift JISには細かい派生コードがあり、UTF-8と完全な互換性がないものも一部にはある。それがテスト段階で出てきてしまったのです」(増満氏)。
当然JALでは事前に準備を行っていたが、文字コード部分のバグなどを完全に押さえ切ることができず、テストでの検証時まで対応を引っ張ることになった。
「しかしこれは予期せぬトラブルが突発的に発生したわけではなく、ある意味で“想定内の出来事”でした。そのため落ち着いて適切な対応を施すことができた。感覚的な要素ではありますが、事前に心の準備ができているかどうかは、プロジェクトの進捗やシステムの品質を大きく左右する重要なポイントになると思います」(同氏)。

今後の展望/レッドハットへの期待

ユーザー会での豊富な成功事例は大きな安心感に、
今後もトータルなフォローを期待

前述のとおり、JALでは今回のシステム基盤刷新プロジェクトに先がけて、AIX→Linuxのリプレースを成功させた他社事例をレッドハットのユーザー会を通じて紹介してもらい、そのノウハウを習得したうえでリプレースに臨んだ。
「繰り返しになりますが、豊富な成功事例があり、そのノウハウを参考にできることは、ユーザー企業にとってきわめて大きな安心感に繋がります。単に公開された事例記事だけではわからない、細かな点まで情報提供してもらえることは、我々にとってたいへん大きなメリットでした。
今回はJALの基幹システムの中で最初となるOSSへの移行プロジェクトでしたが、海外ツアー商品のシステム基盤も同様に老朽化の問題を抱えています。今後も多数のシステムを移行していく予定ですが、レッドハットには引き続き技術的なノウハウだけでなく、プロジェクトの進め方までを含めて継続的に支援してほしいと思っています」(大崎氏)。