ユーザー事例


 中小企業や個人事業主向けの会計ソフト「弥生」シリーズ。2017年で30年目を迎える同製品の登録ユーザーは延べ140万人を超え、BCN AWARD 業務ソフト部門で17年連続1位となるなど、長年圧倒的なシェアを誇っている。これまでデスクトップアプリが主流だった会計ソフトだが、近年では「弥生会計 オンライン」をはじめとするクラウド会計サービスも展開している。そのため利用形態が多様化しても一貫した利便性をユーザーに提供できるよう、弥生ではまず認証処理の共通API化でRed Hat JBoss Fuseを導入。システム連携におけるサービス向上を実現した。

関藤 寛喜氏

弥生株式会社
開発本部 テクニカルリーダー
関藤 寛喜

背景

クラウドサービスとの連携で
会計ソフトの生産性向上を

会計ソフトは近年急速にクラウド化が進んでいる。一般的に、これまでは中小規模のビジネスや個人事業主を対象とした会計ソフトは、スタンドアロンで用いられることが多かった。しかし近年ではそうしたイメージから一転して、オンラインでの利用が増えてきている。その先端を走るのが、弥生シリーズだ。
現在、弥生シリーズは従来型のデスクトップアプリケーションと、クラウドアプリケーションの両方が提供されている。まだ前者のユーザーが多いものの、デスクトップアプリケーションを使いながらクラウドサービスを利用するケースも増えつつある。
クラウドサービスにおける先進的な仕組みに「YAYOI SMART CONNECT」が挙げられる。これは、外部の金融機関やアプリケーション、サービスなどが弥生シリーズにつながり、取引データとシームレスに連携できるというものだ。例えば銀行口座管理の「MoneyLook」や「Zaim」、POSレジの「AirREGI」や「スマレジ」から、弥生へデータを取り込むことができる。これまで別々に処理していた各種アプリケーションと弥生がつながることで、会計処理が飛躍的に効率化され、ユーザーの利便性向上が見込める。さらに、ユーザーが税理士や会計事務所と顧問契約をしていれば、両者の間で弥生のデータを共有または連携することも可能だ。

 

課題

クラウド化で求められた
アプリケーションアーキテクチャの進化

多様なシステムとつながるということは、その接点ごとに認証の処理が必要となる。シングルサインオンでユーザーの入力を省き、使い勝手を向上させることは重要だ。さらにシステムは、リクエストが権限のあるユーザーのものであるかどうかを判断する認可処理を行う必要もある。接続相手が多様なクラウドサービスであり、今後さらに増えていくことを見込むと、認証・認可処理へのアクセスは各種プログラムの変更を吸収できるようにAPI化したほうがいい。
加えて、大局的には既存システムを進化させていかなければならないという課題もあった。これまではデスクトップアプリケーションが中心だったため、システムを大きな塊(モノリシック)ととらえて開発していた。しかしクラウドアプリケーションでは求められる開発スピードがデスクトップアプリケーションとは異なる。そのため、修正による影響範囲などを管理しやすくするため、マイクロサービス化といった、変化に合わせてアプリケーションアーキクチャそのものを進化させていく必要性にも迫られていた。
 

システム要件

迅速に開発、実装できる環境を
開発者のスキルに合わせたESBの使い分けも

弥生社内の開発環境には、すでに国産のESB製品が導入済みだった。GUIでデータ連携を設定できる手軽さが評判のミドルウェアだ。しかし、弥生 開発本部 テクニカルリーダー 関藤寛喜氏は「かゆいところに手が届かない」と物足りなさを口にする。かゆいところに手が届くようにするために、自身でプログラミングができるESB製品を必要としていた。
この背景には、弥生が今後もデスクトップアプリケーションとクラウドアプリケーションを両立させていかなくてはならないことに加え、幅広い開発者を抱えているという事情も絡んでいる。同社には約200名もの開発者がおり、その数字からも、同社がいかに開発に力を入れているかが伺える。その反面、スキルのばらつきが生じるため「開発環境の標準化は大事ですが、開発者のスキルに合わせてESB製品を選べるという点も配慮しました」と関藤氏は話す。
さらに昨今、新たなWebサービスの登場など急速に変化する環境に合わせて、開発速度が早く、新機能の実装もスピーディなオープンソースソフトウェア(OSS)でのシステム構築に魅力を感じており、同氏はこれらの要件を満たすソフトウェアの導入を検討していた。
システム構成イメージ
 

Red Hat JBoss Fuseを選んだ決め手

プログラミングができ
サポートの安心感も得られる

Red Hat JBoss Fuse(以下、JBoss Fuse)を選んだ理由について関藤氏は「やはりエンジニアなのでプログラミングできる点が魅力」と笑顔で話す。
ただし既存ESB製品が持つGUIの手軽さも評価している。「GUIが扱えると、プログラミングが主作業ではない情報システム担当者や初級のエンジニアでも扱える便利さがあります。しかしプログラミングスキルを持つエンジニアは、物足りなさを感じるのも事実です」(関藤氏)。
プログラミングも可能なESB製品として、当初目を付けたのはOSSのApache Camelだった。しかし、サポートのないOSSを商用製品の開発で使うことには懸念と不安があった。
JBoss Fuseは、Apache Camelをベースとしてエンタープライズ向けに複数のフレームワークを統合したパッケージだ。プログラミングができ、かつ実運用レベルでのサポート実績を有するという安心感を得られる点が評価され、最終的にJBoss Fuseが導入されることになった。
 

Red Hat JBoss Fuseを導入したメリット1

エンジニアの能力をフルに生かし
プログラミングによる高い開発力を確保

繰り返しになるが、今回の導入ポイントとして、プログラミングができることは重要だった。GUIとプログラミングでは当然後者のほうが難易度は高くなるが、開発の自由度を高めることができるからだ。プログラミングができれば要件に応じた細かなカスタマイズが可能となるほか、機能拡張にも迅速に対応でき、高品質かつ高度な機能を開発できるという利点がある。関藤氏はこの点について「欲しい機能が手軽に使えました」と満足している。
また弥生のようなソフトウェアベンダーにとって、高い開発力を発揮できる環境を持つことは重要だ。JBoss Fuseがあることで、若いエンジニアがJavaスキルを高める土台として活用でき、ひいては将来のアプリケーション開発などへの貢献も期待できる。
決め手の1つであったサポートの存在も大きい。「サポートの存在で心の安心が得られました。いざという時に頼れる安心感は、開発で冒険してみようという気になれます」と関藤氏。開発者が積極的になれれば、より高度な機能を生み出す可能性も高まる。
 

Red Hat JBoss Fuseを導入したメリット2

商用パッケージにより
最小限の検証で作業期間を短縮

JBoss Fuseが、Apache Camelをベースとして企業向けに統合したパッケージであるメリットも大きかった。純粋なOSSのApache Camelを使うとなると、あらゆる点を一から検証する必要があるためだ。例えば基礎となるランタイムエンジンとの相性はどうか、他のフレームワークとの相性はどうかなど、バージョンの違いも含めてさまざまな組み合わせを検証せねばならず、気が遠くなるほどの作業量になる。
その点、JBoss Fuseならソフトウェア要件など基本的な環境での動作確認はすでにレッドハットが検証済みだ。関藤氏は「言うまでもなく、テストは最小限に済ませたい。その点、JBoss Fuseを推奨環境で使えば基本的な検証は必要ありません。私たちはビジネスロジックだけに集中することができます」と話す。
開発者の検証作業、すなわち労力を減らすメリットは目に見えないところでも効果が期待できる。本来の開発に時間や労力を集中させることで、開発期間も短縮できる。そこで時間に余裕が生まれれば、クオリティを高めたり、次の開発に着手できるようになるなど、好循環も期待できる。
実際、今回の開発期間は驚くほど短い。2016年5月から着手し、他のプロジェクトと並行しながらも7月にはほぼ環境構築を完了、作業期間は2カ月程度ですんだ。
 

Red Hat JBoss Fuseを導入したメリット3

将来への大きなメリットを生む
新しい社内開発環境の第一歩

今回JBoss Fuseを用いて実現した機能は、開発の規模としては決して大きくはない。しかし社内の開発環境で見れば、JBoss Fuseの導入はクラウドアプリケーションに向けてシフトする大きな転換点となり、成功裏に第一歩を踏み出せたことになる。
弥生では既存の機能を、徐々にマイクロサービス化して入れ替えていくことになる。加えて、開発者のレベルに合わせて開発環境を選べる自由度や柔軟性もあわせ持ちたいという思いもあった。これらの課題を解決するために社内開発環境にJBoss Fuseを加えることで、要望を満たしつつ、将来目指す開発環境へ踏み出すことができた。
関藤氏はJBoss Fuseがこれから社内環境でどれだけ力を発揮していくか、国産ESB製品との共存でどのような効果をもたらすかについてこう話す。「真価が判明するのはこれからです。JBoss Fuse導入は、まさに未来に向けた投資と考えています」。
 

今後の展望/レッドハットへの期待

顧客の選択肢を広げる機能拡張が
結果的にフィンテックに行き着く

今後、弥生ではクラウドアプリケーションのサービスを拡充しつつも、既存システムの作り替えも進めていく。その過程で、JBoss Fuseの役割は確実に増えていきそうだ。関藤氏は「JBoss Fuseについて解説している書籍を提供してもらい、とても役に立ちました。今後も引き続き情報を提供してもらえるとありがたいです。ツールのラインナップも増えるといいですね」と期待を寄せる。
いま弥生が進んでいる方向は、まさにフィンテックそのものだ。会計や給与などをカバーする弥生シリーズは、すでに「YAYOI SMART CONNECT」というクラウドを介して多様なサービスと繋がる土台がある。将来的には弥生シリーズの機能をマイクロサービスとして分割し、APIでアクセスする構想も抱いている。これはフィンテックでよく語られる「APIエコノミー」ではないだろうか。まだフィンテックは構想や試行段階であるものが多いが、弥生はすでに実践段階にいるといえる。
関藤氏はこう話す。「ユーザーのことを考えて進めていったら、自然にフィンテックになっていたのでしょう。今は『YAYOI SMART CONNECT』の土台をしっかり構築し、お客様の選択肢を増やしていくことに注力しています」。
弥生は会計ソフトとしては老舗でありながらも、最先端の取り組みにも積極的だ。弥生のクラウドアプリケーションを見れば一目瞭然である。また同社では、開発者向け勉強会を開催するなど、斬新な取り組みも行っている。今後、弥生が日本でフィンテックを実現し、先導する日はそう遠くないのかもしれない。
 


関連リンク

弥生株式会社
Red Hat JBoss Middleware
Red Hat JBoss Fuse