ユーザー事例


 富士山の麓に位置し、南には駿河湾を望む風光明媚な町、静岡県富士市。同市では2017年2月、地震などの災害対策やIT運用管理の効率化を目的に、庁舎内にプライベートクラウドを構築した。クラウド基盤にはRed Hat OpenStack Platform(RHOSP)とRed Hat Ceph Storageを導入し、それらを動かす統合型IaaS基盤としてNECのCPI(Cloud Platform for IaaS)を採用。その背景や導入過程、メリットなどについて、富士市役所 総務部 情報政策課に話を聞いた。

深澤 安伸 氏

富士市
総務部 情報政策課
課長
深澤 安伸

山田 勝彦 氏

富士市
総務部 情報政策課
主幹
山田 勝彦

大長 剛二 氏

富士市
総務部 情報政策課
主幹
大長 剛二

加藤 小太郎 氏

富士市
総務部 情報政策課
主査
加藤 小太郎

井口 悟史 氏

富士市
総務部 情報政策課
上席主事
井口 悟史

 

背景

市の情報化を推進、
災害時の業務継続が課題に

静岡県富士市は、豊富な水資源や流通の利便性を活かし、豊かな文化と産業を育んできた人口25万の都市だ。近年では、市が目指すまちの姿を表現した「いただきへの、はじまり」というブランドメッセージを発表し、国内外からの観光客誘致にも注力している。
同市では、2011年から2015年に「第二次富士市情報化計画」を遂行、さらに2017年から2020年にかけて「第三次富士市情報化計画」を進めている。これは、市民サービスの向上や地域の活性化、行政運営の効率化・高度化などを目的として、市の情報化を推進していくものだ。
特に「第三次富士市情報化計画」では、東海地震や南海トラフ地震などを想定した大規模災害発生時に対処するため、ICT部門の業務継続計画(ICT-BCP)を策定し、具体的な施策と実行が課題となっていた。

課題

緊急災害時の業務継続を視野に入れた
庁舎内のオンプレミス環境が必要

富士市では現在、情報システム基盤を外部のデータセンターに置き、隣接する富士宮市と共同運用する形で電算化を図っている。標準パッケージソフトウェアによる業務の全体効率化やセキュリティ強化により市民サービスの向上を推進し、住民情報や税務に関する多くの業務システムをデータセンターに移行した。市職員も、サーバー側で処理を行なうシンクライアントを通じて業務を遂行している。
しかしこの場合、たとえば災害など不測の事態で庁舎とデータセンター間の回線が切断された場合、業務は停止してしまう。たとえデータセンター側の災害対策を徹底し、対策を施しても、リスクはゼロにはならない。
「回線が回復するまでの時間は、最短でも3日程度かかります。その間、データセンターへのアクセスが切断され、多くの業務を遂行することができません。最悪の事態を回避するために、庁舎内にバックアップとしての業務システムが必要となります」と、富士市役所 総務部 情報政策課 課長の深澤安伸氏は説明する。
現状、すべてのアプリケーションやシステムがデータセンターに移っているわけではなく、庁舎内で稼働しているものもある。万一の際は庁舎内の予備のPCを使用したり、稼働中のサーバーに仮想マシンを立てる等の対応も可能だが、この方法では調達に手間と時間がかかり、緊急時の対応としては現実的ではない。

システム要件

OSSによるIaaS基盤を
庁舎内に構築

これらの課題に対応するため、富士市では庁舎内にIaaS基盤でプライベートクラウドを用意することにした。
IaaS基盤の構築にあたって同市は、NECに相談のうえシステム構成を検討した。設計としては、Windowsが70インスタンス動く規模を想定。「Windowsベースの70インスタンスというと、ハードウェアが相応のスペースを占めることは容易に想像されます。統合型IaaS基盤によって、かなりの集約率となっていることがわかります」と、総務部 情報政策課 主幹の大長剛二氏は語る。
またNECに相談した際に、オープンソースをベースにしたシステムが望ましいと要望したという。
「ベンダーが独自に作ったシステムは、中身が見えません。たとえばダッシュボードから操作した時も、中で何が起きているかがわからない。オープンソースソフトウェアなら中身が見えますし、自分たちのやりたいことも実現しやすい点が大きな魅力です」と深澤氏は語る。
「オープンソースでも、Linuxのように安定した活発な開発コミュニティがあれば進化も早く、利用側のニーズに応えられます。オープンソースソフトウェアという選択に抵抗はありませんでした」(深澤氏)。

RHOSPを選んだ決め手

OpenStackの導入に際して
構築や運用のサポートが必要

オープンソースベースでIaaS基盤を構築するという要望を受けてNECが提案したのが、統合型IaaS基盤のCPI(Cloud Platform for IaaS)だ。ソフトウェアとしては、Red Hat OpenStack Platform(RHOSP)と、ソフトウェア・デファインド・ストレージのRed Hat Ceph Storageが動いている。
「OpenStackは実績を積み重ねて成熟してきていることや、民間企業におけるいくつもの成功事例を聞いていたので、安心して採用しました」(大長氏)。
実は当初、同種のIaaS基盤ソフトウェアの中でも、OpenStackに対しては設計や構築が難しいイメージを持っていたという。そのため、信頼できるサポートが必要だと考えていた。この点について、NECにはOpenStackをサポートする部署があること、さらにエンタープライズ分野でLinuxをサポートし、コミュニティへの貢献度も高いレッドハットのRHOSPであることなどが決め手となった。
CPIにより、富士市では機器の搬入からセットアップまで約1週間というスピード導入を実現した。

富士市のIaaS基盤(活用イメージ)

RHOSPを導入したメリット1

災害時にオンプレミスで使える
バックアップシステムを構築

OpenStackを導入し、今後は実運用システムを乗せていくことになるが、現在は災害時の業務継続を実現するバックアップシステムの構築に取り組んでいる。
まず、住民情報システムについては、緊急時に備えてミラーリングしたバックアップサーバーを庁舎内に設置。データは夜間にミラーリングする。またそこにアクセスするシンクライアント環境のバックアップを今回構築したIaaS環境で動かす。この環境はコールドスタンバイで待機させておき、緊急時にのみ起動すればよい。
「災害時には、どんなことが起こるのか想定できません。対応には、迅速さと柔軟性の高さが鍵となります。それをこのプライベートクラウド環境で実現します」と総務部 情報政策課 主幹の山田勝彦氏は語る。
なお災害時のみの起動であるため、平常時はシステムのリソースが空いている。そこで富士市では、平常時のシステムを有効活用するために、現在庁舎内で動いている個別環境が必要な業務システムなどをプライベートクラウド上に移行することも検討中だ。

RHOSPを導入したメリット2

さまざまな条件の環境を
スピーディかつ柔軟に作る

現在、庁舎内で稼働しているアプリケーションや環境の管理にも課題があった。「最近では、国や県から来る調査や報告業務が電子化されていて、オンラインによる申請や報告が増えてきています。専用のアプリケーションが必要だったりWebブラウザが指定されていたりする場合は、新規で個別の環境を用意する必要が生じます」(大長氏)。
さらに年度予算ベースで動くという庁舎の事情も加わる。年度の途中でサーバー環境や特定の環境が必要になると、予備のPCを使用したり、仮想サーバーを間借りするなど暫定的な実行環境を構築せざるを得ない。これでは、どこで何が動いているかの全体像が把握できず、効率的な業務推進を妨げる要素として管理する上でも問題だ。
IaaS基盤にすることで、これらの要求にスピーディに応じ、待ち時間を短縮できる。総務部 情報政策課 主査 加藤小太郎氏は「仮想マシンが必要になった時にタイムリーかつ迅速に作成でき、動作も速いので、快適に使ってもらえると期待しています」と話す。

RHOSPを導入したメリット3

リソースを一元管理、
インスタンスの状況を把握して動的に変更

IaaS基盤を運用管理する側としては、サーバーリソースを一元管理できるようになったメリットが極めて大きい。たとえばサーバーが遅い時やメモリが不足している時など、ダッシュボードで把握して簡単にリソース割り当てを変更できる。
「どの端末からどこにアクセスできるのかといったセキュリティグループも、グラフィカルに把握できます。今後さまざまなインスタンスが立ってきた時に、これがあると管理しやすいですね」(総務部 情報政策課 上席主事 井口悟史氏)。
できることが多くなった反面、予想される管理運用の難しさについて加藤氏は「しっかりしたサポートがあり、問い合わせ窓口があるので不安はありません」とサポート体制への安心感を示した。

今後の展望/レッドハットへの期待

より柔軟で効率的な環境を目指す
Ansibleを使った管理も視野に

IaaS基盤の本格的な活用はまさにこれからだ。富士市としては、今後さまざまなシステムをプライベートクラウドに乗せて、より柔軟で効率的な環境を目指したいと考えている。
また、今回はプライベートクラウドの構築だが、今後はシステムのマネジメントにも取り組んでいきたいという。大長氏は「最近話題のAnsibleなどを使ったオペレーションの自動化も検討したいと考えているので、Red Hatには引き続き相談にのってもらい、協力をお願いしたい。期待しています」と抱負を語る。レッドハットの自動化プラットフォーム「Ansible Tower」は、組織がシステムの自動化を安全に管理し、利用範囲を最大化して効率化を図るためのソリューションで、昨今急速に注目を集めている。富士市のICTのさらなる進化に期待したい。


関連リンク

富士市
Red Hat OpenStack Platform
Ansible by Red Hat