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今年9月、米国レッドハット社長兼CEO ジム・ホワイトハーストの著書の日本語訳『オープン・オーガニゼーション』(日経BP社刊)が発売された。レッドハットでの経験をもとに、オープンな組織形態が持つパワーを論じた一冊だ。「レッドハット・フォーラム 2016」に来日したジム・ホワイトハーストに、同書の内容や執筆の背景などについて話を聞いた。

 

レッドハットは、神から私への贈り物

——『オープン・オーガニゼーション』の日本語版が発売されました。

ジム・ホワイトハースト(以下、ジムW):先日、日本のインテルの社長の方と会食したのですが、その際に「レッドハットのことをよくわかっている方が訳したようですね」と言っていただきました。今回の日本語版の出版は、日本のレッドハット社員有志と出版社の協力により実現したのですが、私の言いたかったことが日本語でもうまく表現されているようで、出版に関わった大勢の方々に感謝しています。

——本書では、ご自身の経験をベースとした組織論が語られています。デルタ航空のCOOを経て2007年にレッドハットのCEOに就任されましたが、レッドハットがそれまでの企業と違っていた点などあれば教えてください。

ジムW:本書にも書いているように、まず企業のカルチャーの違いに驚きました。
当時のレッドハットは従業員数が1600人ぐらいで、今よりかなり小さな規模でしたが、就任した最初の週に本社で社員集会が行われたのです。前の会社なら「経歴は?」「業界に対してどういう見方をしているか?」などといった質問が出るところですが、レッドハットでは開口一番「オープンソースソフトウェアを使っていますか?」「家ではどんなコンピュータを?」「MP3は使っていますか?」などと矢継ぎ早に質問されました(笑)。しかも、CEOに対してというよりは、仲間に話しかけるような言葉づかいです。今ではもう慣れましたが、その当時は非常にびっくりしたのを覚えています。

James Whitehurst

もう1つ、就任後に最初の役員会が開かれた時ですが、前職では、役員会の資料は常に部下が用意していました。「誰が資料を用意するの?」と聞いたら「当然あなたでしょう」と。あわててOpenOfficeの使い方を学び、自分で資料を作りました。決して見栄えのいい仕上がりにはなりませんでしたが(笑)。

とにかく、いろいろな質問はされるし、発言には膨大な量の意見が返ってくるし、まるで別世界です。周囲の人間はレッドハットのやり方で普通に行動していただけなのですが、私にとっては驚きの連続で、慣れるまでは正直ちょっと大変でした。ある日、自宅から電話で役員と仕事の話をしていた時も、会話の激しさに妻が心配したこともあります(笑)。

——本書で伝えたかったことは、どんなことでしょうか。

ジムW:いま、世の中は急激に変化して、ビジネスの競争も激化してきています。テクノロジーを使ってコミュニケーションをはかり、コラボレーションしていくというニーズが急速に高まっている。従来型のような、経営陣に任せる組織経営スタイルでは、そういった変化に対応していくのはほぼ不可能です。

カエルを水に入れて少しずつ温度を上げていくと、そのまま茹で上がって死んでしまうが、熱湯に入れると飛びだして生き残る、という話をご存知でしょうか?変化に気づけない企業は、イノベーションを生み出せないまま、まさに茹でガエルのような運命を辿ることになります。
そこで組織に必要なのが、前段でご紹介したレッドハットが持つカルチャーとコラボレーション、すなわち参加の力(The power of participation)で、これが本書でまず皆さんにお伝えしたかったことです。

James Whitehurst

レッドハットには、価値のあるものは積極的にシェアしていこうという文化があります。その素晴らしさを、私自身もレッドハットから学び、そして広めたかった。また、レッドハットは決して技術だけの会社ではなく、新しい考えを持つ先進的な会社なのだということを理解いただきたいという意図もありました。つまりレッドハットは、パートナーやお客様にとっても価値のある会社だということです。

本書について「経営の新しいパラダイムを発明したのか?」と聞かれることがありますが、決してそうではありません。レッドハットで実際に何が行なわれているのか、事実を書いたまでです。
まさに私自身が(レッドハットという)熱湯に入れられたカエルだったわけで、その結果、変化に気づくことができたのは幸運でした。レッドハットに来たことは、神から私への贈り物だったと思っています。

 

調整役から触媒へ。新しい組織、そして新しいリーダーのあり方

——本書では新しい企業組織の姿について触れていますが、今後すべての組織や社会がこのような形になると考えていますか?

ジムW:私の考えでは、従来型の階層型組織は、例えば製造業などのように、人をいかに調整して効率を上げるかということを目的としており、それで上手く機能していました。
それに対して新しい組織では、効率を上げるというよりも、アイデアを生み出す力を最大限に引き出すのが目的です。アイデアを持った人が2人いたとき、1+1が2以上になるようなシナジーを生み出す組織です。オープンソースの世界ではそれを実現して、より良いものが作られている。それをいかに組織に応用していくか、ということです。

リーダーもかつては、いかにして各自の活動の効率を上げるか、そのための調整がおもな役割でした。それに対して新しいリーダーの役割は、いかに各自のアイデアを生かしながら、触媒となってより良いアイデアに変えていくか、ということになります。

同時に、今回のレッドハット・フォーラムのテーマのように「参加すること(The power of participation)」が鍵となると考えています。リーダーが変化するのと同様に、参加する側も変わらなくてはならない。単に情報を受け取るという受け身ではなく、参加することによって、自分だけでなくほかの人にもプラスに働くのです。
レッドハットで制作した動画『Open Patient:情報共有による治療」では、ある脳腫瘍患者が自らの医療データを公開することで治療方法を模索しています。自分の治療に自分自身が参加することが、自身のみならずほかの人にもプラスに働くという発想です。

こうした参加の重要性は、企業の戦略立案から社会活動、医療まで、まったく同じことが言えると思います。オープンであるということは皆が参加するということであり、皆が参加することによって皆が恩恵を受ける、というモデルなのです。

——最後に、日本の経営者やビジネスマンにメッセージをお願いします。

ジムW:私は決して従来型の組織経営には価値がなく、すべてにおいて新しい組織経営のモデルが勝っていると言っているわけではありません。

従来型の組織経営スタイルと階層型組織は、企業をとりまく環境の変化が遅く、効率が最大の課題だった時代には適していました。しかし世界は大きく変わり、変化のスピードも速くなってきています。将来、変化を必要としない業務は人工知能やマシンラーニングに取って代わられ、自動化されるでしょう。そうなると残る仕事は自ずとクリエイティビティが重視されるものに絞られます。それを、あなたの組織でどのように生かし、成長させていくのか。
問題そのものが変わるから、それを解決するための組織も当然変わってしかるべきだという考え方です。

ここで書いているのは、私自身やレッドハットの業績がすばらしいということでは決してなく、競争に勝つためのイノベーションを生み出す、経営スタイルや組織のありかたのヒントです。本書を読んで、日本の皆さんにとって組織や経営、ビジネスについて今一度考え直すきっかけとなれば幸いです。

James Whitehurst
 


成功を続ける組織に必要とされるオープンなリーダーシップ

オープン・オーガニゼーション

ビジネスの環境は変化し続けます。従来の企業経営や組織運営では、今後の成長や成功を見込むことはできません。
「オープン・オーガニゼーション」は、激変する世界に即応できるビジネス環境を求める次世代リーダーに向けたメッセージです。最良のアイデアを奨励し、率直なアドバイスを受け入れ、優秀な人材を確保したい、というリーダーやビジネスパーソンにぜひお読みいただきたい一冊です。

発 行: 日経BP社
発売日: 2016年9月20日
     四六判・268ページ
著 者: 著) ジム・ホワイトハースト、
     訳) 吉川南、訳協力) レッドハット
定 価: 本体1800円(税別)

全国書店およびオンライン書店にて好評発売中!

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