ユーザー事例


 紀陽銀行を中核とする紀陽フィナンシャルグループで、各種システムの開発/運営を担当する紀陽情報システム株式会社(以下KJS)。顧客は紀陽銀行だけに留まらず、地元の自治体や企業、さらには全国の金融機関に対し、IT化支援からITソリューションの提供まで幅広い事業活動を展開している。これまで業務単位でシステムを立ち上げてきた同行では、統合データベースの必要性が叫ばれていた。この課題を解決するために採用されたのが、レッドハットのデータ仮想化製品、Red Hat JBoss Data Servicesだ。

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背景

業務ごとにシステムが立ち上がり、
100を超えるデータベースが存在していた

これまで紀陽銀行では勘定系を除き、顧客情報系や営業情報系など、個々の業務単位ごとにシステムを構築してきた。結果、生じた物理データベースの数は100を超える。紀陽銀行出身で支店長の経験も持つ紀陽情報システム株式会社 代表取締役社長の阪本彰央氏は、システムを利用していた立場から、当時の問題点を次のように振り返る。
「お客様のデータを繋ぎ合わせて必要な情報を見たいといった時に、本当に欲しい情報がなかなか出てこないという状況がありました。また出てきたとしても、それが本当に正しいのかという懸念もあった。システム的なサポートの必要性を痛感していました」。
同じく紀陽銀行出身で、25年以上も同行のシステムに携わってきた同社 営業本部 企画室 室長の冷水史和氏は、システム側の状況を次のように説明する。
「当然我々も物理データベースを統合し、整理したいという思いがありました。しかしそのためには億単位のコストを投入する必要があります。また実際にデータ統合を行ったユーザー企業の話を聞くと、うまく活用されていないという実情もありました。データベースを物理的に統合するという取り組みは、極めてリスクが大きいと感じていました」。
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課題

常にデータが変化している様々な
データベースを統合することは、事実上不可能

全てのデータベースを常に最新の状態に保ち、各業務システムが共通で利用できる統合データベースを構築できれば理想的だ。そこでKJSでは、ERPパッケージを導入して統合データベースを構築する、またはETLツールを導入するといったことも検討したという。
「しかし、日々稼働しているシステムは常にデータが変化しており、これらを統合することは現実的に不可能です。物理レベルでデータベースを統合することは非常に難しいと判断しました」(冷水氏)。
そうした中で出合ったのが、レッドハットのデータ仮想化製品であるRed Hat JBoss Data Services(JBoss Data Services) だった。同製品は、分散する複数のデータベースからデータを抽出して1ヵ所に仮想的に統合し、ユーザーに対してシングルビューを提供するデータ統合基盤だ。
冷水氏はレッドハットの季刊広報誌で大和ネクスト銀行や三菱東京UFJ銀行の導入事例を読み、銀行の基幹系システムにレッドハット製品が採用されていることを知った。そこで直接レッドハットに問い合わせ、現状の課題を相談したという。こうして2012年6月から、JBoss Data Servicesの検討は一気に進むこととなった。

システム要件

物理データベースを仮想的に統合し、
最新データを活用できる環境を構築する

時を同じくして紀陽銀行では、行内に蓄積されている大量データを有効活用するためにBIツールの導入も検討していた。こうした流れの中で、冷水氏はBIツールのデータ基盤としてJBoss Data Servicesが最適ではないかと思い至ったという。
JBoss Data Servicesを導入すれば、複数のデータベースから必要なデータを抽出して、ユーザーが求めるデータモデルを仮想的なビューとして瞬時に定義することができる。
「BIツールの導入に当たって、エンドユーザーにどんな分析をしたいかを事前にヒアリングしても、導入後にはまた別の分析がしたいという要望が必ず出てきます。その時に、物理データベースを基本としていたのでは、また新たなデータモデルを作らなればならない。しかしJBoss Data Servicesによる論理データベースを基本とすれば、必要に応じて、ユーザー側で自由に分析軸を変えていくことができます。この差は決定的でした」(冷水氏)。
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JBoss Data Servicesを選んだ決め手

データ利用の柔軟性に加えて、
他システムでの活用にも期待

そこでKJSは紀陽銀行に対し、2012年11月から2013年1月にかけて、JBoss Data Servicesの採用を前提にしたBIツールのプレゼンテーションを行った。ただし同製品で実現するデータの仮想化は、使う側には直接関係しない。そこでJBoss Data Servicesをデータ統合基盤とした仕組みによって、柔軟なデータ分析が可能になる点を訴求した。
「BIツールの導入対象は各本部の企画部門で、大量データを頻繁に扱う部署です。計12回ほどデモを行いました。普段使っているExcelではできないことができるし、動きもいいと、反応はとてもよかったですね」(冷水氏)。
JBoss Data Servicesを採用すれば今後、他の業務システムでも論理データベースを活用できる。
実際の導入プロジェクトは8部署を対象に2013年2月から始まり、うちコールセンタとリテール企画を担当する2つの部署でのカットオーバーが4月15日、次の3部署が5月13日、最後の3部署が6月10日のカットオーバーという予定で進められた。ちなみに今回データ統合の対象としたのは、主要データベースのうちの上位約5つだ。

導入のメリット1

プロジェクト開始からわずか2か月半で、
第一次カットオーバーを達成

今回のプロジェクトは開始から約2か月半という短期間で、始めの2部署でのカットオーバーを達成した。
「JBoss Data Servicesの導入は、システムの開発というよりはむしろ設定に近いものです。物理データベースの構造を理解した上で、ユーザーニーズに対応した論理データモデルを確定し、どんなビューで見せるかを定義します。コーディングやテストという作業もほとんどありませんでした。環境の手配や立ち上げ作業も含めて、今回関わったメンバーはたった2名です。5人月で、3月下旬には一通りの作業が終了しました。これが一番の効果ですね」(冷水氏)。
参考までに今回KJSが実現したシステムは、サーバを1台立て、Windows上にJBoss Data ServicesとBIツールが同居する構成を取る。JBoss Data ServicesはWindows上でも稼働するが、やはりRed Hat Enterprise Linux(RHEL)との相性がいい。しかしBIツールがWidowsにしか対応していないという事情もあり、RHELの導入は今後の取り組みとした。

導入のメリット2

OSSは製品導入コストが低く、
さらにコミュニティによって成長していく

実はKJSでは今回のプロジェクト以前から、OSSの積極的な活用を検討し始めていたという。そこで最新動向のチェックや勉強会なども行っていたが、具体的な採用の動きまでには至っていなかった。そうした中、出会ったのがJBoss Data Servicesだった。
「OSSは製品自体の導入コストを低く抑えることができます。また、レッドハットから話を聞いていく中で、OSSにはコミュニティがあり、その中でソフトウェアは着実に成長していくということを知りました。しかもそのスピードが商用製品に比べて格段に速い。我々がお客様に提供できるソリューションの幅もより速く広げていくことができると感じました」(冷水氏)。
そのことが分かった時点でKJSでは商用製品を候補から外し、OSSの採用を決定した。
「後はJBoss Data Servicesがユーザー要件を満たすかどうかですが、これについても何ら問題はなく高い評価を得ることができました。今後もレッドハットと歩調を合わせていくことで、さらにいい製品が利用できるのではないかと思います」(冷水氏)。

導入のメリット3

レッドハットとのパートナーシップにより、
今後の外販も視野に

KJSでは紀陽銀行に対して、今回構築した一連の仕組みを月額利用料という形で提供している。
「システムは我々が資産として所有し、紀陽銀行様からは利用料をいただくというプライベートクラウド型です。今回の取引単体で利益を得るという発想ではなく、使っていただき、満足していただければKJSのPRにもなり、他のお客様にも展開していくことが可能となる。レッドハットとのパートナーシップをより強化していくことで、今後の外販拡大も可能になると考えています」(阪本氏)。
また株主である日本ユニシスにも籍を置く紀陽情報システム株式会社 常務取締役の吉川章氏も、サブスクリプションの料金以上に価値のある情報を提供してもらったとレッドハットを評価する。
「データの仮想化はきわめて画期的な仕組みです。今後はさらにソーシャルメディア上の投稿といった非構造化データも取り込んで展開していきたいですね。そうすればまた新たなお客様像や行動が見えてくる可能性がある。物理データベースを論理的に仮想化するという仕組みは、今後のトレンドの1つになると思います」(吉川氏)。

今後の展望/レッドハットへの期待

RHELの採用に加え、
Red Hat JBoss BRMSの導入も検討

先にも触れたように、今後はBIツールのLinux対応状況や、JBoss Data Servicesと連携させる他の業務アプリケーションの追加もにらみながら、RHELの導入も検討していく。さらに冷水氏は将来的に、ビジネス上のルールを可視化し、より簡単にルールの変更やアプリケーションの修正を実現できるRed Hat JBoss BRMSの導入も視野に入れていると語る。
「データベースの利用においては、セキュリティの確保が大前提となります。重要項目を全てのユーザーが閲覧できるという状況は許されません。BRMSには利用権限に応じてセキュリティを設定できる機能が包含されており、そうした領域にまで踏み込んでいきたいですね」(冷水氏)。
さらに吉川氏は、既にBIツールを利用しているユーザー企業には、現状を変えることなく、JBoss Data Servicesと連携させる仕組みを提案したいと強調する。
「我々は銀行業務や自治体業務の目利きができます。そうしたノウハウの提供に加えて、レッドハットと連携していくことで、外販の幅をさらに幅を広げていきたいと考えています」(吉川氏)。