ユーザー事例


 最先端テクノロジーを活用したビジネスを世界に展開するソフトバンクグループ。2017年3月末時点で連結ベースの従業員数は約68,000名、子会社・関連会社は約900社と、積極的な投資戦略や新しい事業分野への果敢な挑戦を続けている。今や押しも押されもせぬグローバル企業となった同グループの中核企業であるソフトバンクが、その多彩なサービスの基盤となるシステム開発において、新たな取り組みに着手した。開発と運用が連携してスピーディーにシステム構築を行う手法として注目されるDevOpsを新たに導入。レッドハットのコンサルティングサービスと製品を活用して実施された最初のプロジェクトは、開発生産性の向上のみならず、チームワークの強化とコミュニケーションの活性化という大きな付加価値を生み出した。

山下 豊文氏

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット IT統括 IT本部
プラットフォーム統括部
プラットフォーム開発部 部長
山下 豊文

杉村 亜矢氏

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット IT統括 IT本部
プラットフォーム統括部
プラットフォーム開発部
プラットフォーム推進課 課長
杉村 亜矢

佐々木 拓哉氏

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット IT統括 IT本部
プラットフォーム統括部
プラットフォーム開発部
プラットフォーム推進課
佐々木 拓哉

原田 拓磨氏

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット IT統括 IT本部
プラットフォーム統括部
プラットフォーム開発部
プラットフォーム開発課
原田 拓磨

 

背景

“開発コストは半分、生産性は2倍”を掛け声に、
ビジネスの成長をサポートするIT部門

 ソフトバンクのビジネスは、主力の通信事業の他、スマートロボット、IoT、AIといった新しい領域にも次々に参入し、次世代技術への投資も活発だ。 同社が提供するサービスは、ますます多岐にわたっている。
 これらのサービスを支えるシステムは大小含めて800システムにのぼり、社員と協力会社を合わせて常時5,000名近くがその開発・保守・運用に携わる。新しい価値創造にチャレンジし続けるビジネスに呼応して、システム開発にもスピード感と高い開発効率が求められている。
 テクノロジーユニット IT統括 IT本部 プラットフォーム統括部 プラットフォーム開発部 部長の山下豊文氏は、システム開発の方向性について次のように話す。「当社のIT部門であるIT統括では、開発コストは半分、生産性は2倍を目指して業務改革に取り組んでいます。既存システムは、この目標を達成しながらサービスレベルを維持する。新たに生み出されたリソースは新規事業に振り向け、ビジネスの成長を支える。これがIT統括の使命です」

課題

開発生産性の向上と世界共通基盤の構築、
2つの課題を解決する新しい開発手法の導入

 しかし、ここまで大規模な開発体制の中で、開発生産性を劇的に向上させるのは簡単ではなかった。作業工程を時系列に進めていくウォーターフォール型で様々な開発プロジェクトが進められており、既存システムの保守中心の開発も多くなるなど、抜本的な改革に踏み込めない状態が続いていたという。
 一方で、ソフトバンクのIT部門には大きなプラットフォーム構想がある。Global IT Platform(GIP)戦略だ。多くの企業買収を経て現在のソフトバンクが形成されているが、それぞれのシステムは別々に構築されているのがほとんどだ。今後は、国内で作ったシステムをグループ企業で使う方向で開発が進められる。「GIP戦略では、これまでと全く異なる新しいアーキテクチャで世界に通用するシステムを作ります。その開発は何が何でも新しい手法で取り組もうという機運がIT統括全体で高まってきていたのです」(山下氏)
 開発生産性向上という普遍的な命題とGIPという戦略の実行、この2つの課題解決が待ったなしとなったタイミングを好機ととらえ、新しい開発手法の導入に踏み切ることを決定する。選択された開発手法は、以前から情報収集と検討を重ねていたDevOpsだ。

適用プロジェクトの決定

AI系アプリケーション管理システムの
開発でDevOpsを実践

 DevOpsはアジャイル開発の流れから生まれた開発手法で、開発(Development)と運用(Operation)が互いに連携して開発・テスト・運用の工程を短期間で進め、CI/CD(継続的インテグレーションおよび継続的デリバリー)の実践などによりデプロイの回数を劇的に増やすことができる。メンバーが情報共有しながら協力して作業を進めるスクラム開発により、小規模な開発チームでも実行可能な手法という特徴もある。
 「DevOpsの採用には、CI/CDとテストの自動化がキーになると考えていました。これらの作業のベストプラクティスやツールが揃ってきたこのタイミングで一歩踏み出そうと決意しました」(山下氏)
 DevOpsによる最初のプロジェクトとして白羽の矢が立ったのは、AI系アプリケーションの管理システムとして開発が決定していたPersonal Agent Manager(PAM)だ。ソフトバンクのAIプロジェクトは40を数える※2。店頭での問い合わせ対応などを想定した自動回答アプリケーションの開発もその中の一つで、PAMはこのアプリケーションの設定や回答作成などを行う管理者向けシステムである。
※2 SoftBank World 2017の基調講演資料より
 
DevOpsとは?

レッドハットをパートナーとして選んだ決め手

DevOps実践のための具体的な
実践項目を明示したワークショップ

 ソフトバンクのシステムは自社開発が基本だ。長年にわたりシステムの内製化に取り組み、オープンソースを積極活用する開発戦略をとっている。レッドハット製品も5年ほど前から本格的に採用が始まり、今では導入範囲も広がってきた。今回のDevOpsの取り組みも、レッドハットによるワークショップの開催が出発点となっている。
 このワークショップにおいてレッドハットのコンサルティングチームは、DevOpsを成功に導く実践項目を紹介し、各項目における現状とあるべき姿の洗い出しを行った。さらに、各実践項目の作業内容と成果物を定義することで具体的なロードマップを示した。
 テクノロジーユニット IT統括 IT本部 プラットフォーム統括部 プラットフォーム開発部 プラットフォーム推進課 課長の杉村亜矢氏は、「懸案だったCI/CDやテストの自動化など、やるべきことを体系的に整理し、具体的なアウトプットを明示してくれたので、DevOpsやスクラム開発のメリットを短時間で理解できました」とワークショップの効果を評価している。

レッドハットのコンサルティングを活用したメリット

実践項目ごとに専門家を配置する
分厚いチーム編成

 ワークショップは2016年9月に4回にわたり実施した。その内容をベースに議論を重ね、12月に始まるPAMのプロジェクトで正式にレッドハットのコンサルティングサービスを利用することを決定する。
 レッドハットは、アジャイル開発、CI/CDのパイプライン、テストの自動化など、DevOpsを進める上での7つの実践項目をあらためて提示し、各項目に個別の専任コンサルタントを配置するチーム編成を行った。ソフトバンクの開発チームとレッドハットのコンサルティングチームはプロセスと成果物を共有し、共同で作業を進めた。開発は予定通り、2017年3月に成功裡に終了した。
 「ウォーターフォール型の手法では、開発が終了するまでシステムの品質への不安から解放されませんでした。今回はエキスパートの実践的なアドバイスを受けて、作業を一つひとつ確認しながら進められましたし、スクラム開発でメンバーの作業状況が共有され、いつ何ができるかが明確なので、開発期間中は常に安心してプロジェクトに取り組めました」と語るのは、PAM開発のプロジェクトマネージャーを務めたプラットフォーム開発課の原田拓磨氏だ。
 プラットフォーム推進課の佐々木拓哉氏は、「これだけエキスパートを揃えられるのはレッドハットの強みだと思います。共同で作業を進めることで、レッドハットが持つノウハウも吸収できました。コンサルティングを活用したからこそ、DevOpsの手法を短期間で習得し、開発を成功させることができたと実感しています」とコンサルティングサービスを利用したメリットについて話している。

OpenShiftを活用したメリット

コンテナ技術を容易に活用できる
DevOps向け統合基盤ソフトウェア

 DevOpsの実践に重要な役割を果たす技術がコンテナだ。OS上のアプリケーションに独立した実行環境を与える仮想化技術である。アプリケーションとライブラリを一つのイメージとして持ち運べるので、コンテナ単位で機能の修正や変更を行える。アプリケーションの開発サイクルを短縮し、高品質なサービスを素早く市場に投入できる。
 今回のPAM開発では、このコンテナ技術を活用した。製品として採用されたのはRed Hat OpenShift Container Platform(以下OpenShift)である。コンテナ管理ソフトのDockerやコンテナのオーケストレーション機能を提供するKubernetesを含む統合基盤ソフトウェアだ。
 「DevOps実現のための一つのカギはコンテナの利用です。しかし、これまで社内であまり使ったことがなく、スキルも蓄積されていませんでした。コンテナの仕組みの学習から始めていたら、プロジェクトのスケジュールに間に合いません。OpenShiftはコンテナ利用に必要な機能がすべて搭載されていて、レッドハットの手厚いサポートもあったため、効率よく開発が進められました」(佐々木氏)

DevOpsを実践した効果

CI/CDによるデプロイ回数の飛躍的な向上に加え、
開発チームのコミュニケーションが活性化

 今回のPAMのプロジェクトでDevOpsに取り組んだ成果は、開発現場の声に集約されている。開発生産性に関する定量的な効果と開発チームの運営に関わる定性的な効果について、プロジェクトの中心メンバーである原田氏と佐々木氏は次のように語ってくれた。
 「DevOpsに取り組んで得られた明確な効果の一つは、CI/CDの実践によるものです。作業の手戻りが大幅に改善されたほか、テストの自動化率もアップしました。その結果、一度の開発工程でのデプロイ回数が、以前は2週間に1回だったのが、118回にまで向上しました」(原田氏)
 「スクラム開発でメンバーの仕事が可視化されるので、助け合って仕事を進めようという空気が生まれました。メンバー同士のコミュニケーションが活発になり、チームの雰囲気も格段に良くなりました。こうした技術面以外の効果も、開発生産性を高めるのに好影響があったと確信しています」(佐々木氏)

今後の展望

将来的なITライフサイクルの完全自動化も
視野に入れ、DevOpsを開発標準に

 開発生産性の向上に加えて、チームワークの強化とコミュニケーションの活性化という成果を得た今回のプロジェクトをきっかけに、「IT統括内でDevOpsに取り組む開発チームが着実に増えている」(杉村氏)という。DevOps推進とスキル底上げを担う組織横断的なタスクチームも設立されるなど、DevOpsの本格的な適用に向けたムードも高まってきた。
 今後の取り組みについて、山下氏は次のように語っている。「今回のPAM開発の成功は、DevOpsについての社内の関心を大きく喚起しました。プロジェクトを通じて、開発者一人ひとりが率先して品質や効率を考えるようになりました。個人の意識改革が進み、チームの成長にもつながっています。2018年度完了予定のGIP戦略では全システムの半数以上をDevOpsで開発する見通しで、その先においてはITライフサイクルの完全自動化を目指す動きもあります。その実現のためにも、今回の成果を足掛かりに、開発標準としてDevOpsを定着させたいと考えています」


関連リンク

レッドハットのDevOps
Red Hat OpenShift