ユーザー事例


 Yahoo! JAPANのグループ企業であるIDCフロンティアが、新たな事業創出に向けた取り組みを強化している。主力のデータセンター事業を基盤としたクラウドサービスやビッグデータ分析サービスのノウハウを活用し、IoTや機械学習などの最先端技術を組み合わせて、顧客志向の新しいデータ活用サービスの開発を推進する。同社では、この新しい取り組みの基盤技術としてコンテナ技術を採用し、アプリケーションの開発・実行環境に「Red Hat OpenShift Container Platform」を導入した。すでに北九州市において、介護施設従事者のIoTによる行動認識実証実験を産学連携で実施したほか、企業のデジタル変革を後押しする様々な実証実験プロジェクトが進められている。

大屋 誠 氏

株式会社IDCフロンティア
データビジネス本部 基盤開発部 部長
大屋 誠

大和 喜一 氏

株式会社IDCフロンティア
データビジネス本部 基盤開発部 主任研究員
大和 喜一

 

背景

インフラ提供からデータ活用へ、
従来の枠を超えた新事業の創出に挑むIDCフロンティア

 IDCフロンティア(以下IDCF)は、ヤフーグループのデータセンター事業を担う戦略ITインフラプロバイダーとして、クラウド、ビッグデータ分析、ネットワークセキュリティ、ハウジングなどのサービスを提供している。首都圏・東日本・西日本の3つの地域で8ヵ所のデータセンターを運営、国内屈指の高速大容量ネットワークと最新鋭設備で顧客の事業継続を支えている。
 近年IDCFが強力に推し進めているのが、インフラ提供からデータ活用へのビジネス領域の拡大だ。堅牢で大規模な設備と豊富なノウハウを背景に“データ集積地構想”を打ち出し、データを処理する仕組みを提供するだけでなく、集まったデータを中心に据えたサービス開発に取り組むことで、ビジネスモデルの変革を急いでいる。
 こうした成長戦略の一環として、クラウドサービスの枠組みで提供するデータ活用サービスとは一線を画す、新しい取り組みが本格的に始動した。この取り組みは、IDCFが顧客と積極的に関わり、顧客や外部企業などと協力してデータ活用のアプリケーションを自ら開発するという、従来のデータセンター事業者の立ち位置とは大きく異なるものだ。

課題

小さく始められ、
効率的で俊敏なアプリケーション開発

 データ活用を軸とした新事業の創出というテーマは、数年前から検討されてきた。長年顧客のデータを扱ってきたデータセンター事業者の老舗として、データ爆発によるパラダイムシフトによって、あらゆるビジネス活動はデータ中心になると早くから気づいていたからだ。
 しかし、事業化に至る検討段階や実証実験においては、開発リソースへの大きな投資は難しい。基盤システムの構築にしても、アプリケーションの開発にしても、少ない人数や外部との協業で効率的に進められる環境の整備が必須だった。
 この新事業創出の取り組みをリードするデータビジネス本部 基盤開発部 部長の大屋誠氏は、「新事業として想定していたIoTや機械学習などAIを取り入れたデータ分析サービスの開発は、PoC(Proof of Concept:概念実証)を何度も行い、修正と変更を繰り返してサービスを拡張することが必要です。一方で、他社と共同で実証実験を進めていく段階では開発スピードも求められますし人数も限られますので、小さく始められ、かつ効率的に運用できる環境が強く求められました」と当時を振り返る。

システム要件

開発・改善サイクルを高速化するコンテナ技術

 そこで、基盤技術として注目したのがコンテナだ。コンテナはアプリケーションと必要なリソースをパッケージ化し、それぞれのアプリケーションを独立した空間で動作させる技術である。コンテナ単位で機能の修正や変更が行えるので、アプリケーションの開発・改善サイクルを大幅に短縮し、高品質なサービスを素早く市場に投入できるメリットがある。
 コンテナ技術採用の理由を、データビジネス本部 基盤開発部 主任研究員 大和喜一氏は次のように説明する。「1ヵ月で構築できて改良なしに使い続けられるアプリケーションなら、いわゆるウォーターフォール開発の方がスムーズかもしれません。しかし、特に最新のデータを大量に扱うようなアプリケーションは、新しい技術を素早く取り込んで改善していかないと、すぐに時代遅れになり市場から取り残されてしまいます。価値あるサービスを数多く迅速に生み出すためのベストな技術がコンテナだったのです」
 顧客のフィードバックを得ながらPoCを繰り返し、アプリケーションの開発・改善サイクルを高速化できるコンテナ技術。コンテナという小さな単位で開発が進められるため、新しくプロジェクトに参加してもコードを見ればすぐに開発が始められるという環境も作りやすい。

OpenShiftを選んだ決め手

有力なオープンソースソフトを技術サポート付きで使える安心感

 スピードが要求される新しいサービス開発に対し、コンテナ技術の採用は既定路線とも言える選択だったが、次に問題となったのが具体的にどんな開発プラットフォーム製品を用意するかという点だ。コンテナ型の仮想化技術であるDockerやコンテナのオーケストレーションツールであるKubernetesといった有力なオープンソースソフトを使えば、ライセンスコストはかからない。しかし、こうしたオープンソースソフトのオリジナル版を自前で使うのは、運用の負担が大きい。バージョンアップが頻繁で、機能追加や仕様変更のサイクルも速いからだ。
 いくつかの製品を比較検討した結果、DockerやKubernetesなどのオープンソースソフトを企業システム向けに最適化した統合プラットフォームであるRed Hat OpenShift Container Platform(以下OpenShift)の導入を決定。その理由について大屋氏は、「この分野は技術の進歩が速く、コミュニティから出てくる情報に追従するだけでも大変です。もちろんOpenShiftも日進月歩で進化していますが、レッドハットの技術サポートに大きな安心感がありました。すぐに使い始められる環境を整える必要があったのです」と話す。
 また、IoTまわりのゲートウェイや通信機能の実装も重要な選定ポイントになったという。こうしてOpenShiftの導入が正式に決定した。

OpenShiftを導入した成果1

安定したアプリケーション開発環境の実現

 その後、IDCFの新規事業創出の取り組みを支えるアプリケーション開発環境が、OpenShiftを用いて構築された。IDCFが持つクラウド基盤上にOpenShiftがインストールされ、現在数多くの実証実験プロジェクトのサービス開発が東京と福岡の2拠点並行で行われている。
 構築段階では、クラウドで使われている基盤ソフトウェアとの親和性や冗長化、認証など各種の技術的な課題をクリアする必要があったが、基本的な環境ができあがった後は安定して運用できているという。「IDCFのクラウド環境にOpenShiftをどう実装するかというアーキテクチャの設計は、かなり綿密に行いました。パッケージ製品としてアップデートやバグ修正もしっかりしているので、安定して利用できています」(大和氏)。
 また、アプリケーション開発環境にデプロイされたシステムのクローンを当日中に作成するなど、コンポーネントを利活用できる点も魅力だ。
 さらに機能のアップデートへの対応を繰り返すことで知識も深まり、開発メンバーのスキル向上とノウハウの蓄積にもつながった。開発メンバーは、DevOpsやマイクロサービスなどへの関心の高まりも見せ始めているという。

OpenShiftを導入した成果2

介護施設のIoT・ビッグデータ分析で実証実験を実施

 2017年1月から3月までの間、北九州市の高齢者介護施設において、IoTセンサーとビッグデータ分析を活用した行動認識実証実験が行われた。IDCFがOpenShiftで構築したアプリケーション基盤を使って手がけた最初のプロジェクトである。介護事業を手掛けるウチヤマホールディングスおよび九州工業大学と共同で実施した。
 具体的には、介護職員と看護職員に装着したIoTセンサーやスマートフォン、施設の各部屋に設置されたセンサーから行動データを収集し、そのデータをもとに業務行動の分析・推定を行うというものだ。今回開発した機械学習・行動認識アプリケーションによって、収集した約12億レコードのビッグデータを分析して業務行動の推定を行い、職員の経験年数、業務内容と時間の相関関係などの可視化に成功。職員の行動実態を定量的に把握し、業務改善や作業効率化に役立てる方向だ。
 この機械学習・行動認識アプリケーションのほか、ユーザー認証やデータクレンジングを行うIoTアプリケーションと、データの格納と分析を担うビッグデータアプリケーションが、OpenShiftを用いて開発された。今後も検証を重ねて行動認識の分析精度を高め、本格的なサービス提供につなげたい考えだ。

IDCフロンティアが実施した実証実験

介護施設従事者のIoTによる行動認識

介護・看護職員の個々人が保有する業務ノウハウの共有や改善を、業務行動を記録し可視化する視点からアプローチしています。介護や看護の通常業務を妨げないよう、職員が身に付けた市販の小型センサーデバイスとAndroidスマートフォンを組み合わせ、加速度、地磁気、照度、気圧、温湿度などのデータを取得しています。

さわやか海響館

介護付き有料老人ホーム「さわやか海響館」にて

老舗酒造の製造IoT開発

製造現場の温度・湿度といった環境変化をスマートフォンからチェックできることで、蔵人(くらびと)間でいつでも情報共有ができ、情報を遠隔地から把握できるようになります。その結果、仕込み期間である12月~3月に蔵人が酒蔵を片時も離れられないというような物理的制約を解決し、働き方の刷新につながると考えられています。

旭日酒造

旭日酒造

今後の展望1

コンテナ技術活用をさらに進めて、
マイクロサービス化を推進

 他にも、島根県の酒造会社で、酒造工程における温度変化などのセンサーデータと職人の業務記録をスマートフォンで共有・監視するIoTアプリケーションの開発がパートナー企業と共同実施された。この他にも複数のプロジェクトが進んでいる。
 ますます本格化する実証実験やプロジェクトの成功に向けて、IDCFがキーポイントとして挙げたのはマイクロサービス化の推進だ。コンテナによるアプリケーション開発をさらに先に進め、アプリケーション同士が疎結合して動作するマイクロサービスの本格的な展開を見据えている。それにはコンテナ技術のさらなる成熟が不可欠だという。
 この点について大屋氏は、「介護施設での実証実験は一つの建物で行いましたが、複数の建物や遠隔地も含めたサービス展開も予想されます。こうした場合も、マイクロサービスとしてアプリケーションを構築すれば、コンテナを再利用することで簡単に拡張できます。コンテナはオープンソースによって技術革新が進んでいますが、企業システムとして安心して使うには信頼性の担保が重要です。この点でレッドハットの果たす役割に大いに期待しています」と語る。

今後の展望2

強固なインフラとデータ活用のノウハウで、
企業のデジタル変革を後押し

 インフラ提供からデータ活用へ、従来のデータセンター事業者の枠を超えた新しいビジネスに舵を切るIDCF。2017年4月にはデータビジネス本部が設置され、組織としての体制も充実した。
 今後の展開について、エンジニアが才能と情熱を発揮できる場を創造していきたいと語る大屋氏はこう強調した。「介護施設や酒造会社もそうですが、これまでテクノロジーや先進技術のイメージがない企業もデジタル化を避けて通れない時代です。あらゆる企業がテクノロジーの力で新しい価値や利便性を生み出すことを迫られています。企業にインフラを提供し続けてきたIDCFが、今度はそのテクノロジー基盤を活かして、現場に密着した新たなサービスでお客様の問題解決に貢献していくことに、大きな意味があると確信しています」
 強固なインフラとデータ活用のノウハウで、企業のデジタル変革を後押しする新しいIDCF。今後の躍進に大きな期待が寄せられている。
 


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