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 2017年10月に開催された「RED HAT FORUM TOKYO 2017」に合わせて、米国レッドハットで製品・テクノロジー部門全体を統括するポール・コーミアが来日した。レッドハット全体のテクノロジー戦略を主導するコーミアは、昨今のビジネス環境の変化をどのように捉え、ビジネスを支援するテクノロジーの在り方をどのように考えているのか、また今後のIT部門には、どのような取り組み姿勢が求められるのか。数年ぶりの来日となったコーミアに話を聞いた。

ポール・コーミア
米国レッドハット
エグゼクティブバイスプレジデント/製品・テクノロジー部門 社長
ポール・コーミア

 

アプリケーションが“ビジネスの核”を成す時代、すべての企業が“テクノロジーカンパニー”への転換を余儀なくされている

ビジネス環境とITのかつてない変化が、テクノロジーカンパニーへのシフトを要求している

 
——はじめに、直近の10年というスパンで見た時、企業のビジネス環境とそれを支えるITはどのように変わってきていると見ていますか。

 今のビジネス環境は、変化のスピードが10年前とは比べものにならないほど劇的に速くなっています。そこでユーザー企業の各事業部門が求めている能力は“アジリティ”、つまり、より“俊敏に動くことができる力”です。例えば自分たちの業務プロセスをより速く回していきたい、顧客や市場の要求に合わせてより速くサービスを改善したいというニーズで、それはそのままITに求められる能力でもあります。
 特に現在は、アプリケーションが“ビジネスそのものの核”を成すようになってきており、ITソリューションを提供している会社だけがIT企業という時代ではなくなってきています。あらゆるユーザー企業が“テクノロジーカンパニー”への転換を余儀なくされている状況で、IT部門が果たすべき役割は以前にも増してより大きくなったと言えるでしょう。
 
——IT部門は、各事業部門からの多種多様な要件により速く、より柔軟に対応していかなければならないということですね。

 その通りです。もう過去のモデルに戻ることはできません。新しいテクノロジーを2年後に提供する、あのアプリケーションの更新を3年後に行う、という姿勢では通用しなくなってきているということです。さらにIT部門は、事業部門に提供したソリューションをセキュアかつ効率的に運用管理するだけでなく、継続的にアプリケーションの更新をサポートしていく必要もあります。果たすべき役割が増えたことで業務範囲が拡大し、さらに複雑化してきているのです。
 
——そうした環境変化の中で、企業が“テクノロジーカンパニー”への転換を目指すために、IT部門にはどのような姿勢が求められるのでしょうか。

 アジリティを求める事業部門は、自分たちが変わらなければならないことに気づき始めています。IT部門が手伝ってくれようとくれまいと、実際に自分たちが欲しいもの、必要とするものを次々と取り入れ始めており、その後の運用やサポートはIT部門に任せるという状況を生み出しています。
 このままではいけないという認識をIT部門も当然持っているのだと思いますが、選択肢としてどんなものがあるのか、まずはIT部門自身が事業部門に先立って把握し、実践していく必要があります。テクノロジーカンパニーへのシフトを主導するのは、IT部門をおいて他にはないのですから。
 
——IT部門が理解しておくべき昨今のテクノロジーの変化として、具体的にはどのようなことが挙げられますか。

 新しい技術を迅速に取り入れ、競争優位性を生み出すアプリケーションを作り上げる。環境変化が生じたなら、都度速やかにアップデートしていく。まずはこうした流れを実現できる環境を整備することが何よりも重要です。そのためには、次の大きな3つの変化を理解しておく必要があります。
 まず1つめは“インフラが変わってきていること”です。今では物理サーバーだけでなく、仮想化環境も多用されており、プライベートクラウド、さらにアプリケーションによってはパブリッククラウドで運用されています。まさに、ハイブリッドクラウドの環境です。
 2つめは“アプリケーション開発環境の変化”です。インフラが多様化したことで、アプリケーション開発者はそのメリットを最大限に享受するために、新しいツールや開発プラットフォーム、開発プロセスを必要としています。それが、例えばDevOpsといった開発手法や、効率的なアプリケーション開発や実装を可能にするLinuxコンテナといったテクノロジーです。
 そして3つめが“インフラの管理方法の変化”です。今はインフラの変化に伴ってアプリケーションの運用環境も多種多様であり、アプリケーションの開発環境も変わってきている。セキュアで効率的なIT環境を維持し続けるためには、各インフラのモニタリングやインフラ変更の自動化、運用の自動化も考えていかなければなりません。
 今のITの世界は、これら“3つの大きなうねり”が同時に起きているという、過去に例のない状況にあるのです。そのことを、IT部門はしっかり認識する必要があるでしょう。
 
ポール・コーミア
 

ハイブリッドクラウド環境、Linuxコンテナ、そしてDevOpsが事業部門のアジリティを支える

レッドハットは、オープンハイブリッドクラウド戦略を通じてIT部門をサポートする

 
——その3つの大きなうねりに対応していくために、鍵となるテクノロジーやトレンドとはどのようなものになりますか?

 ベースとなるインフラ部分では、プライベートクラウドとパブリッククラウドの両方を賢く使いこなすハイブリッドクラウド環境が大前提になります。複雑になりがちなハイブリッドクラウド環境において、事業部門が求めるサービスを迅速に提供すると同時に、安定的に管理し、セキュリティを担保し、さらに稼働後の保守やサポートを提供していかなければなりません。つまりIT部門は、事業部門にアジリティを提供するためのハイブリッドクラウド環境をトータルでコーディネートしていく必要があるということです。
 ハイブリッドクラウド環境で利用されるテクノロジーが、まさにLinuxコンテナです。インフラ担当者は物理、仮想、プライベートクラウド、パブリッククラウドと多様なインフラ環境において、一貫性のあるアプリケーション実行環境を提供することができます。そして開発担当者は、コンテナ単位でサービスを実装することで、アプリケーションの開発や改修を迅速かつ柔軟に実現できるようになります。Linuxコンテナによって、開発したアプリケーションをハイブリッドクラウド環境のどこででも動作させられるようになるのです。
 そしてもう1つ、価値あるアプリケーションを迅速に開発するために必要となる手法が、Linuxコンテナを活用したDevOpsです。環境の変化に影響を受けるアプリケーションは、ウォーターフォール方式では要件変更に柔軟に対応することができません。そこで開発担当者と運用担当者が一体となり、ニーズを随時取り入れながら、ビジネスそのものの核となっているアプリケーションをブラッシュアップしていくというやり方が現実的となるのです。
 事業部門のアジリティを支えるIT部門としては、ハイブリッドクラウド環境とLinuxコンテナ、そしてDevOpsは欠かすことのできない要素だと言えるでしょう。
 
——そうしたIT部門の取り組みに対して、レッドハットにできることは何ですか。

 この10年間の変化に合わせて、レッドハット自身も大きな進化を遂げてきました。まずオープンソースのOSとして20年以上も前に開発が始まったLinuxは、今ではユーザー企業でもごく当たり前に利用されています。
 そしてそのオープン性を拠り所として、Linux上で多くの新たなテクノロジーや今まさに台頭しているトレンドが生まれました。たとえばクラウドやビッグデータ、Linuxコンテナは、OSSのLinuxを基盤とするがゆえに実現可能になったものです。ハイブリッドクラウドの核となるコンテナ技術は、Linuxそのものの技術(Container is Linux)です。その1つがLinuxコンテナであり、エンタープライズの要求に耐えるLinuxコンテナを提供できるのは、レッドハットだけです。つまり、こうしたIT業界の変化を常に牽引してきたのが、まさにレッドハットだということです。
 これらを踏まえて、レッドハットはハイブリッドクラウド環境をロックインなく活用可能とするオープンハイブリッドクラウドを提唱し、以下の大きな3つの方向性でIT部門を支援していきます。
 まず1つめが、言うまでもなく多岐にわたるOSS製品のラインナップです。
 コンテナプラットフォームのRed Hat OpenShift Container Platformは、世界で最も利用されているエンタープライズ向けKubernetesです。Red Hat Enterprise Linux(以下、RHEL)をはじめ、すべてのRed Hat JBoss Middlewareはコンテナ対応を完了しており、OpenShift上で動作させることができます。Red Hat Storageも、Linuxコンテナ対応が進んでいます。また、プライベートクラウドを実現するプラットフォームであるRed Hat OpenStack Platformは、OpenStack市場でリーダーのポジションを獲得しています。こうした多様なOSS製品の提供で、IT部門による先進テクノロジーの導入を牽引していきます。
 続いて、統合プラットフォームレベルでの管理サポートです。これは物理サーバーや仮想化環境、プライベートクラウド、パブリッククラウド、さらにはコンテナ環境であろうとも、レッドハットのソリューションを利用していただくことですべての管理が容易になるということです。Red Hat CloudFormsは、レッドハットが提供するプラットフォームだけでなく、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloud Platformなどのパブリッククラウドをシームレスに管理することができます。またRed Hat Ansible Automationによって、これらすべての構成管理等の作業を自動化することが可能です。
 そして3つめとなるのが、ソリューション活用に際してのサポートです。現在、世界各国で「Red Hat Open Innovation Labs」という施設を設立しています。同施設では、ハンズオン形式で、レッドハットのソリューションをどう活用すればビジネスの課題を解決でき、さらにはイノベーションを誘発することができるのかをお客様と共に考え、実践します。アジア太平洋地域では2017年10月に初めてシンガポールに開設され、今後も他地域にて展開予定です。
 
プロダクトラインナップ
 

OSSの世界が有するテクノロジー、文化、プロセスには、ビジネスを支えるための数多くのヒントがある

IT部門の新たなリスクテイクの姿勢が、ビジネスの成否を左右する

 
——アジリティのために、ハイブリッドクラウド環境をLinuxコンテナで活用し、アプリケーション開発をDevOpsで進める。こうした取り組みは、日本企業にとってかなりのチャレンジに思えますが、どのような点に留意して進める必要があるでしょうか。

 IT部門は、事業部門のアジリティに対する要求を、自分たちへの要求と捉えて受け入れていく必要があります。抵抗を感じているのは、決して日本の企業だけではなく、他国の企業でも同様です。従来は、変化に対応しないことでITリスクを担保する手法も通用しました。しかし、アプリケーションがビジネスの核となる領域において変化を拒否することは、仮にITリスクが減少したとしてもビジネスリスクを抱えることになります。利用されなくなったアプリケーションに存在価値はないのです。
 つまり、リスクの取り方を考え直す時が来たということです。大きな失敗を防ぐために小さな失敗からより多くを学習する、現状を是とせずに改善し続ける。それらの考え方は、日本の製造業における取り組みを参考に生み出されたことを思い出してください。そして、OSSの世界に存在するより良いテクノロジー、文化、プロセスには、自社のビジネスを支えるための数多くのヒントがあります。
 新しい技術を積極的に取り入れ、同時にセキュリティと品質も担保する。5年先は難しくとも、2〜3年のレンジで将来を予測し、どんな最新テクノロジーを取り入れていくべきかを考え、実際に試し、検証し、実装していくことで、事業部門の要求に応えられるようにする。IT部門のそうした新たなリスクテイクの姿勢が、自社ビジネスの成否を大きく左右することになると思います。
 加えて、システムインテグレーターの皆様も、ユーザー企業から依頼されたシステムを迅速に構築するだけでなく、自分たちの顧客が、ビジネス面で成果を上げるためにどんなテクノロジーが必要なのかを深く考え、提案し、アジリティを発揮できる新しいIT環境、ひいては新しいビジネスにいざなっていく。それがこれからのあるべき姿だと思います。
 そして重要なのは、我々皆がお互いに協力し合えば、必ず成功させることができるということです。

引き続きレッドハットは、企業のビジネスイノベーションを支援していく

 
——今後レッドハットは、どんなテクノロジー戦略を取ることで、企業の未来をサポートしていくのでしょうか。

 オープンハイブリッドクラウド戦略を通じて、レッドハットは必要なインフラやアプリケーションの開発能力、管理能力を提供します。そして事業部門のニーズをいち早く実現し、企業としてアジリティを獲得することを強力に支援できると確信しています。
 またプロダクトラインナップを進化させていくという観点で言うと、例えば現在、各OSSコミュニティではAIを活用したさまざまな試みが行われています。レッドハットは2015年6月、RHEL環境の定期的な情報収集を行い、AIベースでその環境構成のリスクの予知と通知、レポーティングを行う「Red Hat Insights」というシステム分析サービスの提供を開始しました。また2017年5月には、OpenShift上で、Web統合開発環境やデプロイ環境などをWebブラウザ経由で利用可能にするクラウドサービス「OpenShift.io」を発表しましたが、ここでもAIが使われており、最適なプログラムコードの推奨を実現しています。今後、他の製品にもさらにAIの技術を盛り込んでいく予定です。
 企業の未来、というと遠い将来を指し示すように聞こえますが、そんなことはありません。未来はもう始まっているのです。“Future is Now”、すなわち未来とは、まさに今この瞬間のことに他ならないのです。レッドハットとしては、今から将来に向けて継続的に、あらゆるOSSの技術を携えてお客様を支援していきます。そしてハイブリッドクラウド環境を実現するために、RHEL、Linuxコンテナ、OpenStack、OpenShiftなどの技術がユーザー企業におけるITの主流となるよう、精力的にお客様のお手伝いをしていくつもりです。


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