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 効率性を重視した国内6拠点(製鉄所4地区、2製造所)の生産体制で年間約3,000万トン/世界8位(2016年)の粗鋼生産量を誇るJFEスチール株式会社。積極的な情報システム活用にも定評があり、経済産業省と東京証券取引所が選ぶ「攻めのIT経営銘柄」に2017年まで3年連続で選定されている。2003年の経営統合から一貫してオープン系のシステム基盤構築に取り組んできた同社が、攻めのITの姿勢を貫いている背景にはどのような考えがあるのか。常務執行役員 IT改革推進部長の新田哲氏にお話を伺った。

AI活用もあくまで業務改革の実現のため。
経営や業務の課題を本質的に改善する
IT活用を目指す

 
――はじめにJFEスチールにおけるIT部門の役割についてお聞かせください。

 当社は旧日本鋼管と旧川崎製鉄の経営統合によって2003年に設立されました。設立時から積極的なIT投資を続けてきましたが、2014年に「継続的な業務改革と戦略的なIT活用によって、お客さま基軸で価値を創造し、迅速に変化に対応できるグローバルレベルのIT活用先進企業」を目指すというITビジョンを掲げ、その取り組みをさらに加速しています。

 このITビジョン実現のための3本柱として掲げているのが「クラウドファースト」、「セキュリティ強化」、「高度ICT活用」です。古いIT資産を柔軟なオープン系に移行してクラウドとオンプレミスのハイブリッド環境を構築し、強固なセキュリティを確保しながら、ITで業務改革を牽引する。この3本柱にバランスよく投資して、ITビジョンを実現する方針です。

 我々IT部門の役割は、あくまでもIT活用を通じて業務改革を推進することです。私が率いる「IT改革推進部」という部署名にも、その意味が強く込められています。
 

――「攻めのIT経営銘柄」に3年連続で選ばれています。御社が考える攻めのITとはどのようなものでしょうか。重視しているポイントなどをお聞かせください。

 当社のIT戦略の柱は「クラウドファースト」、「セキュリティ強化」、「高度ICT活用」の3つだと申し上げました。安全かつ安定したシステム基盤を活用して、業務改革を断行する。この業務改革にいかにつなげていくかということが、我々にとっての攻めのITの本質です。昨今、AIやビッグデータ、IoTなどさまざまなキーワードが飛び交っていますが、これらの先端テクノロジーさえ使えば攻めのITを推進できると考えるのは誤りです。うわべだけの攻めのITになっては意味がありません。経営や業務の課題を本質的に改善するIT活用が求められているのです。

 もちろんAIなどのテクノロジーの活用は重要です。例えば当社では、製鉄所設備のメンテナンス業務へのAI活用に本格的に取り組んでいます。製鉄所の設備は24時間365日の稼働が前提であり、常時の状態監視や計画的な点検のほか、万一故障が起きた場合も迅速に修理して、生産への影響を最小限に抑えなければなりません。しかし、故障対応はベテラン技術者の経験に基づく知識や判断能力に頼る部分が少なくないのが実情です。

 そこで、設備メンテナンスにAI技術を開発することで、ベテランの技能を次世代に継承し、故障からの復旧時間を極限まで短縮することを目指しています。ベテラン技術者の過去の作業実績や判断などを記録したデータベースとAIを組み合わせて、経験が浅い技術者でも故障原因の特定や復旧に関する情報をすばやく引き出せれば、ベテラン同様の正確な故障対応が可能となります。当社においてはAIの活用も、あくまでも業務改革の一環なのです。

格段に安定してきたOSS。
変化への高い追随力と安定性で攻めのITを支える

 

――2003年の経営統合以来、積極的なIT投資を続けてきた御社ですが、ITへの取り組みはどのように変化してきたのでしょうか。

 現代の企業は常に変化への対応が求められています。企業を取り巻く環境の変化、企業内部の変化、市場の変化、お客様側の変化、ITの利用技術の変化。我々が長い時間をかけて、オープン系の柔軟なシステムへと移行させてきたのは、こうした変化への対応を強く意識してのことでもあります。

 最初のチャレンジは、経営統合に伴う本社の販売管理システムの刷新でした。これが2003年から3年かけて構築した「J-Smile」です。ホストコンピューター上にJavaテクノロジーでオープンな環境を作りました。ERPは採用せずに、Javaを用いてスクラッチで組みました。オープンソースソフトウェア(OSS)を採用したのは、この時が最初です。

 次に取り組んだのが、保全管理システムの全社的な刷新です。鉄鋼事業では、生産管理や操業技術とともに、製造設備の保守管理にも高度な技術が必要です。先ほど説明した設備メンテナンスAI技術など、現場設備点検や異常の予知・予兆検知技術の開発と実装に取り組んでいます。

 現在取り組んでいるのが、製鉄所の基幹システムです。製鉄所のシステムは、高炉建設に合わせて構築されるため、建設当時の技術を使った古いものばかりでした。構築された時期も異なっているため、プラットフォームもアーキテクチャもバラバラです。2016年からは、オープン系のOS上でシステムを共通化し、すべての製鉄所が同じ基幹システムを使う仕組みの構築に着手しています。

 このように、オープン系の柔軟な基盤の上で、その時代の最新かつ最適な技術を用い、時代の変化に合わせてシステムを構築する、というのが我々のIT戦略の根幹を成す考え方です。
 

――今後新たに取り組もうと考えている分野や領域はありますか。

 先ほど、今取り組んでいる保全管理システムの話をしましたが、そこでのIoTの活用です。年間約3,000万トンの粗鋼生産において、常時稼働している設備が万一故障しても、いかに早く復旧できるかが安定生産のカギとなります。現在進めているAIを活用した保守技術伝承に加えて、工場設備から出てくる膨大なセンサーデータを活用して、工場の安定稼働へつなげられるよう研究を重ねています。製鉄所の設備には自動制御のために多くのセンサーが付いていますが、これらのデータを蓄積して、故障予知や予防保守を強化し、生産設備の品質改善に役立てたいと考えています。
 

――オープン系への移行を軸に攻めのIT投資を続けてきたJFEスチールでは、OSSをどのような位置づけで活用しているのでしょうか。

 OSSは従来に比べると性能も向上し、格段に安定してきたと感じています。2006年にJ-Smileが稼働してから12年が経ちますが、Strutsを用いて構築したJavaアプリケーションが今でも陳腐化せずに安定して動いています。また、OSSは変化への追随力が実に高い。新しい技術をすぐに取り込んで業務改革に結びつけられるのは、大きなメリットです。

 当社では、アプリケーション構築のフレームワークからOS、そしてミドルウェアとOSSの適用範囲を段階的に広げてきました。2016年に構築したプライベートクラウドのメインOSはRed Hat Enterprise Linuxです。また、昨年本格運用を開始したサプライチェーンの基盤となる全社データベース「JFE統合現品DB」では、Red Hat JBoss Data Virtualizationを使って、一日数百万件のトランザクションを処理しています。

 当社にとってOSSの活用はますます重要になっています。各所で製品検討する際には、OSSを選択肢の一つに入れるようにしています。運用ツールや監視ツールでは実際にOSSを採用している比率が高いですし、今後、業務利用の領域に導入が増えていく可能性は十分にあるでしょう。OSSが当社の攻めのITの推進に重要な役割を果たしていることは間違いありません。
 

――最後に、レッドハットに対する期待やご要望についてお聞かせください。

 我々のような製造業のシステムでは、24時間365日の稼働を支える安定性が最重要課題です。システムの安定が担保されてこそ、高度にITを活用でき、それを業務革新につなげることができます。当社はそのシステム基盤をオープン系で構築してきました。JFEスチールの経営やビジネスを支えるのは、OSSをはじめとするオープンなテクノロジーであり、今後もその方針は変わりません。レッドハットの製品やソリューションに関しては、今のところ性能面も品質面も大変満足しています。今後も革新的なテクノロジーと高品質なサポートにより、当社の攻めのITを支えていってほしいと思います。


 


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JFEスチール株式会社
Red Hat Enterprise Linux
Red Hat JBoss Data Virtualization